海外における安全管理 予防接種について ~ワークキャンプリーダーお役立ち情報集~

海外における安全管理 ~予防接種~

 参加者の方から寄せられる医療相談として多いのが、「どんな予防接種を受けたらいいのですか?」という質問です。海外で健康な生活を送るためには、出国前に予防接種を受けておくことが推奨されていますが、どの予防接種を受けたらいいのか悩まれる方が多いようです。そこで、海外に渡航する際の予防接種について解説します。
 

予防接種の基本   

1)なぜ海外に滞在する人に予防接種を奨めるのですか? 
   予防接種の目的は感染症を防ぐことにあります。海外では感染症にかかるリスクが高くなるため、事前の予防接種をお奨めしています。とくに途上国では衛生環境の問題などで、感染症のリスクはかなり高い状況になっています。  海外で頻度の高い感染症は、飲食物から感染する下痢症やA型肝炎です。また、環境・農業・建築系のワークキャンプでは、傷口から感染する破傷風にも注意が必要です。地域によっては、蚊に媒介されるマラリアやデング熱、性行為や医療行為で感染するB型肝炎や梅毒、動物からかかる狂犬病なども注意すべきものです。
  こうした感染症の一部には有効な予防接種があり、それを出国前に接種しておけば安心というわけです。 

2)予防接種にはどのような効果があるのですか? 
  予防接種ではワクチンという薬品の接種を行います。ワクチンとは、感染症の原因になる病原体を弱くしたり(生ワクチン)、殺したり(不活化ワクチン)したもので、これを接種すると感染症への抵抗力が獲得できます。生ワクチンは1回接種するだけで充分な効果がありますが、不活化ワクチンは一般に2回以上の接種が行われます。また、ワクチンの効果は次第に弱くなるので、数年毎に接種を繰り返すことが必要です。 

3)予防接種に副作用はありますか? 
   ワクチンの副作用を心配する方もいるようです。接種後の腫れや痛みといった軽い副作用は時々おこりますが、ショック症状やケイレンなどの重篤な副作用は大変に稀となっています。ただし、アレルギー体質があったり、以前に予防接種で副作用をおこした方については、事前にその旨を医師にご相談ください。
 

予防接種  

1.下痢(感染症腸炎) Diarrhea
原因・症状 多くの場合、水や不潔な手で調理した食物で感染。海外で場所を問わず最もかかりやすい病気。
対策 下痢をするとほぼ100%脱水状態になるので、①何よりも水分をしっかりとる、②腸が炎症をおこしている時は、より吸収のよいポカリスエットなどの糖電解質液を飲む、③ポカリなどがない場合は、WHOが推奨している、ORS(Oral Rehydration Salt)という粉がどこの国の薬局でも買えるので、これを水に溶かして飲むとよい、④ポカリもORSもなかった場合は、小さじ山盛り4杯の砂糖と小さじ半分の塩を1リットルの水に溶かしたものや、ジュースに塩を溶かしたものでもOK、⑤症状が重い場合や高熱や血便を伴う症状は、無理せずに病院へ行くこと、⑥軟便、腹痛が続く場合は脂っこいものや辛いもの、甘いもの、刺激の強い食品、乳製品をなるべく控える。
予防 生水は飲まない。ミネラルウォーターやジュースで、万が一無理な場合でも煮沸消毒を行う。ジュースの氷であたることも多いので注意。また、水に入れて消毒するタブレットも日本の薬局で購入できる。


2.マラリア Malaria
原因・症状 マラリア原虫を体内に持つハマダラカによって発病。熱帯熱マラリアで12日前後、四日熱マラリアで30日、三日熱マラリアと卵型マラリアは14日程度の潜伏期間がある。悪寒、震えと共に体温が上昇し、1~2時間続く。その後、顔面紅潮、呼吸切迫、結膜充血、嘔吐、頭痛、筋肉痛などがおこり、4~5時間続くと発汗と共に解熱する。この発作が繰り返される。
対策 湿地や川の近く、山林に行くときは長袖、長ズボンを着用し、夜間の外出は控える。蚊帳や蚊取り線香、虫除けスプレー、超音波発信装置の虫除けなどを利用。
予防 予防接種はなく、予防内服薬は日本では入手しにくいので、現地で購入したほうがよい。予防薬は規則的に服用し、帰国後も4~6週間は飲み続けること。日本で予防薬を買うには、各検疫所または、最寄りの大学病院などに問い合わせる。その場合、出発の3~4週間前には購入する必要がある。

<予防薬の種類>
①マラロン     商品名→MALARONE®
②メフロキン    商品名→メファキン®
③ドキシサイクリン 商品名→ビブラマイシン®

3.黄熱病 Yellow Fever
原因・症状 黄熱ウイルスを持つ蚊によって発病。通常3~6日くらいの潜伏期間の後、悪寒を伴った高熱が続く。症状が進むと、出血症状(鼻血、歯茎からの出血、吐血)や蛋白尿が起こる。
対策 湿地や川の近く、山林に行くときは長袖、長ズボンを着用し、夜間の外出は控える。蚊帳や蚊取り線香、虫除けスプレー、超音波発信装置の虫除けなどを利用。
予防 ワクチンは1回の接種で10年間有効。接種を受けるのが最も有効な予防法で、検疫伝染病の中で唯一、渡航に際して予防接種の国際証明書が要求される伝染病。接種済み証明書は接種後10日目から有効になり、10年間有効です。摂取回数は最低1回で、概算料金は4,500~8,500円×1回。

4.コレラ Cholera
原因・症状 コレラ菌に汚染された生の魚介類、生水を接種することによって、また不潔な手指から感染。1~5日の潜伏期間の後、下痢や嘔吐などが起こる。腹痛や発熱を伴うことはほとんどない。死亡率は低いが、感染力は強い。
対策 抗生物質などを投与。下痢が激しければ、脱水症状を防ぐために点滴で水分や電解質を補う。
予防 生水、氷、生の魚介類、生野菜などから感染するので、十分加熱したものを食べる。カットフルーツなども洗った水が汚染されていることがあるので、自分で剥いたほうが無難。予防接種もあるが、効果は50%程度なので、衛生面や食生活に注意することが一番の予防法。


5.破傷風 Tetanus
原因・症状 土壌中の破傷風菌が外傷部から体内に入ることで発症する。破傷風菌が直接体内に入り込む場合が多いが、動物の糞便中にも菌が存在することがある。潜伏期間は4日~20日くらい。口が開けにくくなり、全身の筋肉痙攣や呼吸困難、心臓麻痺を引き起こし、診断が遅れたり抗毒素が注射されなければ約7割が死に至る。
対策 傷口を過酸化水素水で入念に消毒すること。不用意に傷を閉じたりせずに早めに医師に相談する。
予防 日本では三種混合ワクチンと二種混合ワクチンの定期接種が実施されているため、患者数は減少している。前回の接種後10年を過ぎた人は、追加接種が望まれる。その場合、摂取回数(既に接種している人は)1回、概算料金は1,000~4,000円。

6.A型肝炎(流行性肝炎)Hepatitis A
原因・症状 汚染された飲食物を介して消化管から感染。全身倦怠、食欲低下、発熱等の症状が約1週間持続したあと、黄疸が出る。(出ないこともある)。重症になると1か月以上の入院が必要となる場合がある。
対策 特に治療法はなく、安静と食餌療法が基本。
予防 A型肝炎ワクチンを2~4週間間隔で2回接種する。さらに約半年後に1回追加接種すると、5年間近く効果が得られる。摂取回数は最低2回(2~4週間あける)で、概算料金は6,000~8,700円×2回。生水、氷、生の魚介類、生野菜などから感染するので、十分加熱したものを食べる。カットフルーツなども洗った水が汚染されていることがあるので、自分で剥いたほうが無難。特に60歳以下の人は抗体保有率が低いため、接種をお勧め。


7.狂犬病  Rabies
原因・症状 イヌ、キツネ、アライグマ、コウモリなどの発病動物に噛まれ、ウイルスによって感染。潜伏期間は、長く一定せず平均で1~2ヶ月を要しますが、時には7年間の例も人で報告されています。発病すると、物事に極めて過敏になり狂躁状態となって全身麻痺が起こり、最後は昏睡状態になってほぼ100%死亡。
対策 狂犬病が疑われるイヌ、ネコおよび野生動物にかまれたりひっかかれたりした場合、まず傷口を石鹸と水でよく洗い流し、医療機関を受診する。狂犬病は一旦発症すれば特異的治療法はない。
予防 狂犬病のワクチンを4週間の間隔をあけて2回接種、さらに6~12ヵ月後に3回目を接種。むやみにイヌや野生動物に接触しないこと、現地の状況や活動範囲などから危険度を考慮して、必要があればワクチンをあらかじめ接種すること。狂犬病の犬は水を極端に嫌うので、いざとなったら飲料水用に持っている水を撒いて追おう。日本でワクチンを接種する場合、摂取回数は最低2回(3~4週間あける)、概算料金は5,000~7,500×2回。

8.腸チフス(Typhoid fever)
原因・症状 A型肝炎とほぼ同じ地域に分布。汚染された水、食物、保菌者のベッドシーツなどから経口感染する。40度近くの高熱のみで必ずしも下痢などを伴わないこともある。高熱が1週間から2週間も持続するのが特徴。
対策 抗生物質などを投与。
予防 汚染された食物、水などを通して感染することから、手洗いや食物の加熱で予防。また、ワクチンは弱毒生ワクチン(4回経口接種)と注射ワクチン(1回接種)が存在するが、日本では未承認のため、横浜の海外勤務健康管理センターなど限られた機関で摂取可能。摂取回数は最低1回で、概算料金は5,000×1回。ワクチンの効力が出るのは接種完了後2週間ほどしてからなので、接種する場合は国内で完了することが薦められる。


*その他の注意ポイント
・    持病があるときは、必要な薬を必ず日本で準備していきましょう。医師に持病の経過説明書を英文で作成して 
もらえば、現地での通院の際に便利です。
・    外傷はまめに消毒し、虫除けも常に使用すること。気候、風土が日本とは違うことを忘れずに。

<参考URL>
成田空港検疫所HP
厚生労働省の検疫所HPより http://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html